契約書作成
契約書の重要性
契約は、原則として、双方当事者の意思の合致により成立し、効力が発生します。
すなわち、契約書を作成しなければ契約の効力が認められないというわけではないのです。
それにもかかわらず契約書が重要になるのは、1つには紛争が生じたときの証拠となること、1つには当事者に対する契約の拘束力を強めることにあります。
契約書を作成しておけば契約のなされたこと、また細かい条件などについて主張することが出来ますし、単なる口約束よりも書面化されたほうが当事者の意識が高まり、これをより守ろうとする姿勢が強まることになります。
ただし、保証契約などでは、契約は書面でしなければ効力を生じないとされています(民法446条2項)。
「契約書」だけでなく、様々な名称で文書が作成されます。
主要な文書の種類の一覧は以下のとおりです。
契約書および関連文書一覧
文書の種類 | 内容 | |
---|---|---|
1 | 契約書 | 一般的な合意文書。 |
2 | 覚書 | 契約交渉の途中で、一部の合意内容を文書にしたもので、本契約を後日締結することになる。 |
3 | 念書 | 相手方に特定の法律行為を約束させることを目的として、一方的に提出を求めることが多い文書。 |
4 | 仮契約書 | 諸条件が整う前段階で締結される契約書。融資申請や官公署への許可申請に資料として添付するなど形式的に利用されることもある。 |
5 | 変更契約証書 | 特定の契約を指定して、その内容の一部を変更するために締結される文書。 |
6 | 協定書 | ある条件を複数当事者間で決定したときなどに使用される文書。 |
7 | 示談書 | 主にトラブル解決を目的として使用される文書。 |
8 | 借用書 | 金銭消費貸借契約書、つまりお金を貸し借りする際に使用される文書。 |
9 | 約款 | 定型的な内容を多数の相手方に適用するために設けられた規定。 |
10 | 利用規約 | サービスの利用に際し、定型的な内容を多数の相手方に適用するために設けられた規定。 |
11 | 約定書 | 継続的な取引の根幹となる決まりを定めた文書で、個別契約とセットで使われる。 |
上の表にあるとおり、覚書も契約書になります。「覚書は正式な契約書ではない」といわれる方がいますが、合意した内容が記載されていて、契約当事者の署名、押印があれば契約書として成立します。
契約の内容
契約書を作成するうえでは、「誰が契約当事者として、誰に対して、いかなる給付を求めうるのか」を明確に特定しうるように記載することが必要です。
一般的に、契約書に記載すべき必要最小限の事項としては、「表題」「当事者」「目的となる給付の内容」「履行の条件・期限」「契約成立年月日」などがあります。
「表題」は、それがあることによって書面の内容の理解をしやすくする機能があります。
表題と契約の内容が異なったりすると、契約の解釈に混乱が生じるおそれがありますから、内容にあったわかりやすい表題をつけるようにすべきです。
「当事者」は、誰が契約の当事者として誰に対して給付を求めることが出来るのかを特定する記載であり、大変重要です。法人が当事者となる場合には、代表者の署名捺印もしくは記名押印が必要になります。
代表権限のないものが署名等をしても法人に対する効力は生じないので、登記簿で代表権を確認するなど、注意が必要です。
実務上は、会社役員や部長と行った立場の人が契約書に署名することもあります。これは、そのような会社の代表権を持たない人が会社代表者の代理として証明しているものと見ることができますが、後に契約の効力を争われるおそれがまったくないわけではありません。
また代理人の立場の人間が署名することもありますが、このような場合には、代理権があることの確認が必須になります。
さらに、後に「この署名は自分のものではない」といった主張がなされないようにするためには、押印は実印をもって行い、印鑑登録証明書を添付しておくべきです。
「目的となる給付の内容」にいう「給付」とは、契約に基づき相手方に対して求めることが出来る内容になります。それは、金銭の支払い、物の引渡しや、工事を行うことなど、様々ですが、後に紛争が生じることを防止するには、どのような内容の給付を求めることが出来るのかを、誰が見てもある程度特定で出来るように具体的に記載すべきです。
売買契約であれば、目的物の種類・数量・品質などを記載することになります。また、これに対する対価も給付の1つになります。
「履行の条件・期限」とは上に述べた給付をどのような条件が成就した場合に行わなければならないのか、いつまでに給付しなければならないかということです。
期限は、一般に「何月何日までに」といった確定期限であることが多いのですが、「学校を卒業したら」「誰それが死んだら」といった不確定期限が付されることもあります。
「契約成立年月日」も「いつ意思の合致があったのか」を示す記載として、通常は記載されることになります。
記載を避けたい有害な条項
罰金を受ける契約条項
例 「利息は年利109.9パーセントとし・・・・」
金銭の貸付を行うものが年109.5パーセント(閏年では年109.8パーセント)を超える利息を定めた契約を結ぶと出資法違反で5年以下の懲役または1千万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する(出資法5条2項)。
公序良俗に違反して無効な条項
例 「借家人において出産した場合には、貸主は賃貸借契約を解除することができる」
公序良俗に反する契約は無効です(民法90条)。例えば、子供が生まれたら借家を明け渡す契約、相場とかけ離れた高値や不法な行為・物件を目的とする契約などです。
強行法規に違反して無効な条項
例「本件土地賃貸借は、甲(賃貸人)において、一年前の予告により契約を解除することが出来る」
借地借家法の契約期間や更新の規定、金銭貸借での利息制限法の規定は「強行法規」であり、この規定に反する特約をしても無効(金銭貸借では貸金業者の場合の特例に注意)。
あいまいな危険な条項
例「借主は貸主に対して年率○パーセントの利息を支払う。」
利息の支払い時期が不明確。月払いか半年払いか年払いかを区別し、いつ支払うかをはっきり記載しなければなりません。
例「著しく債務の履行が遅延したときは、甲は本契約を解除することが出来る。」
「著しく遅延したとき」「本格的に稼動したとき」などはっきりと決められない条件を入れてはなりません。
契約書と印紙税
契約書はその中身により(表題ではない)、印紙税法の基づき文書に対し課税されます。
契約書に使用する印紙は「収入印紙」です。
郵便局等で購入します。
また、印紙税は、法人税や所得税同様、税務調査の対象になります。
課税対象となる文書は国税庁ホームページに一覧表があります。
印紙税は、課税対象となる文書を作成した人が、定められた金額の収入印紙を文書に貼り、消印をして納付します。
この義務を故意に免れた場合には、1年以下の懲役、20万円以下の罰金という刑罰が定められています。
なお、契約書に印紙を貼らなかった場合に、その契約書の効力に影響があるかというと、原則として関係がありません。
これは、国に対して税金を納める義務を怠ったということであり、契約の内容とは無関係なためです。
なお、収入印紙を節約するために、契約当事者が収入印紙を貼ったものを1通、もう1通をそれをコピーし作成したものは、印紙税の課税対象となります。
国税庁回答
契約書の写し、副本、謄本等
契約書は、契約の当事者がそれぞれ相手方当事者などに対して成立した契約の内容を証明するために作られますから、各契約当事者が1通ずつ所持するのが一般的です。
この場合、契約当事者の一方が所持するものに正本又は原本と表示し、他方が所持するものに写し、副本、謄本などと表示することがあります。しかし、写し、副本、謄本などと表示された文書であっても、おおむね次のような形態のものは、契約の成立を証明する目的で作成されたことが文書上明らかですから、印紙税の対象となります。契約当事者の双方または文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの
正本などと相違ないこと、または写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明があるもの
なお、所持する文書に自分だけの印鑑を押したものは、契約の相手方当事者に対して証明の用をなさないものですから、課税対象となりません。
また、契約書の正本を複写機でコピーしただけのもので、上記のような署名若しくは押印又は証明のないものは、単なる写しにすぎませんから課税対象とはなりません。
このように、印紙税は、契約の成立を証明する目的で作成された文書を課税対象とするものですから、一つの契約について2通以上の文書が作成された場合であっても、その全部の文書がそれぞれ契約の成立を証明する目的で作成されたものであれば、すべて課税対象となります。
公正証書とは
公正証書は、公証役場で公証人が作成した公文書のことです。
契約書を公正証書にするメリットは以下のものがあります。
- 一定の場合、債務不履行があるとすぐに強制執行ができます。
- 当事者が証書を紛失しても、公証役場に原本が保管(原則、20年間)されていますので、謄本の請求をすることができます。
以上のようなメリットがあります。
一方デメリットとしては、公証役場へ支払う手数料、公証役場へ出向く等の手間と時間がかかります。
活用例として、相手方に一定額の金銭を支払う約束(金銭消費貸借契約など)を公正証書にして、それに強制執行認諾文言を付けると、債務不履行があった場合、裁判の手続なしで金銭取立ての強制執行をすることができます。強制執行認諾文言とは、「債務不履行のときは強制執行を受けても異議はありません」旨の債務者(保証人を含む)の意思表示になります。
つまり、公正証書が債務名義(強制執行によって実現されるべき請求権の存在と範囲、債権者、債務者(保証人を含む)を表示した公文書)となります。
強制執行認諾文言付きの金銭消費貸借契約書であれば、この証書によって即座に強制執行でき、裁判で勝訴判決をとってから強制執行の申立てをするといった通常の手間が省けるのです。保証人についても、強制執行認諾文言があれば同様となります。
当事務所は、契約書作成し、それを公正証書へする手続代行業務も行っております。
当事者が公正証書作成する際にかかる手間や時間などは軽減できますので、ぜひ当事務所をご活用ください。